「アレルギーの本当?」は、へっちゃらの管理人「まっさん」が子供のアレルギーを調べる中で、気になった「アレルギーの雑学」「様々な治療法」「噂話」をまとめて編集しています。詳しくはこちらをご覧ください。
「子どもへの口移しはやめたほうがいい」
子育てをしていると、こんな話を聞くことがありますよね。
親が使った箸やスプーンを子どもに使わせたり、熱いものを親が冷ましてから食べさせたり。昔は当たり前だったことが、今では「虫歯菌がうつるから避けたほうがいい」と言われることがあります。
ところが、アレルギーについて調べていると、ちょっと意外な研究が出てきます。
乳児期に親と唾液が触れる機会があった子どもほど、後のアレルギー疾患が少なかった
という研究です。
「え?口移しって、アレルギー予防になるの?」
気になりますよね。
実際の研究では何が分かっているのでしょうか。
口移しとアレルギーに関係がある?
2023年、日本の研究グループがかなり興味深い研究を発表しました。
日本の2地域に住む小学生・中学生とその親を対象に、乳児期、つまり1歳未満のころに親子でどのような唾液接触があったかを調査。
その後、学童期になった子どもたちの湿疹、アレルギー性鼻炎、喘息などとの関係を調べました。
対象になったのは、約3,570人の子どもです。
その結果、乳児期に親との唾液接触があった子どもでは、学童期の湿疹やアレルギー性鼻炎が少ないという関連が見つかりました。
| 乳児期の唾液接触 | 学童期との関連 |
|---|---|
| 親と食器を共有 | 湿疹のリスクが低いことと関連 |
| 親がおしゃぶりを口に入れてから与える | 湿疹・アレルギー性鼻炎のリスクが低いことと関連 |
| 親との唾液接触 | アレルギー疾患が少ない傾向との関連 |
| 口移しをすれば予防できる | そこまでは研究で証明されていない |
数字だけを見ると、かなり驚きます。
特に、おしゃぶりを親が口に入れてから子どもに与えていた場合、学童期の湿疹やアレルギー性鼻炎が少ないという関連が確認されています。
なぜ唾液がアレルギーと関係するの?
ここからが面白いところです。
唾液には、単なる「水分」ではなく、たくさんの成分や微生物が含まれています。
人の口の中には、非常に多くの細菌が住んでいます。
もちろん、すべてが悪い細菌というわけではありません。
口の中にはさまざまな微生物が存在していて、そのバランスが口腔内の環境を作っています。
そして、赤ちゃんの口腔内細菌は、生まれてから少しずつ形成されていきます。
親子の唾液が触れることで、親の口腔内にいる微生物が子どもの口へ移る可能性があります。
これがアレルギー研究で注目されている理由の一つです。
免疫が「いろいろなもの」に触れることが関係している?
赤ちゃんの免疫システムは、成長しながらさまざまな微生物や物質に触れていきます。
腸内細菌や皮膚の細菌などが免疫システムと関係していることは、これまでにも研究されてきました。
口の中も例外ではありません。
2025年のレビューでは、乳児への食べ物の「口移し」に近い行為である**premastication(親が食べ物を噛んでから子どもに与えること)**について、親から子どもへ口腔内細菌が移ることや、早期の微生物への曝露が免疫の発達と関係する可能性が検討されています。
まだ研究段階ではありますが、
親子の唾液接触 → 口腔内の微生物環境に影響 → 免疫の発達に影響 → アレルギーのなりやすさにも関係する?
という流れが仮説として考えられています。
「口移しでアレルギーが予防できる」という話が出てきた背景には、単純な食べ物の問題ではなく、乳児期の微生物への曝露と免疫の発達という研究があります。
昔の「口移し」と今の研究は少し違う
ここは注意したいところです。
「口移し」と聞くと、親が食べ物を口で噛み砕いて、そのまま赤ちゃんに食べさせることを想像するかもしれません。
医学研究では、これをpremasticationと呼ぶことがあります。
一方、2023年の日本の研究で調べられたのは、食器の共有や親がおしゃぶりを口に入れる行為など、もっと広い「親子の唾液接触」です。
つまり、
研究で「唾液接触とアレルギーの関連」が見つかった
=「親が食べ物を噛んで子どもに与えればアレルギーを予防できる」
という意味ではありません。
| 言葉 | 内容 |
|---|---|
| 唾液接触 | 親子の口腔内の唾液が触れること全般 |
| 食器の共有 | 同じ食器・スプーンなどを使うこと |
| おしゃぶりの口移し | 親が口に入れたおしゃぶりを子どもに与える |
| Premastication | 親が食べ物を噛んでから子どもに与える行為 |
| アレルギー予防 | 研究では「関連」が示されている段階 |
「口移しをすればアレルギー予防になる」とは言えない
ここが一番大事です。
2023年の日本の研究は、乳児期の唾液接触と学童期のアレルギー疾患との関連を調べた研究です。
「口移しをしたグループ」と「しなかったグループ」に分けて、何年も同じ条件で口移しをさせた実験ではありません。
そのため、
「口移しをしたからアレルギーが減った」
と証明することはできません。
もともと生活習慣や家庭環境が違っていた可能性もあります。
例えば、親子の食生活、兄弟の有無、ペット、住環境、保育環境など、アレルギーに関係する可能性のある要素はいろいろあります。
こうした要素をすべて取り除いて、「唾液だけ」の効果を確認するのは簡単ではありません。
以前にも似た研究があった
実は、この話は2023年に突然出てきたものではありません。
2013年にも、スウェーデンで184人の乳児を対象に、親がおしゃぶりを口で「きれいにしてから」子どもに与える習慣とアレルギーとの関係を調べた出生コホート研究があります。
その研究では、親がおしゃぶりを吸ってから子どもに与えていた場合、18か月時点の喘息、湿疹、感作が少なく、湿疹については36か月時点でも低い傾向が続いていました。
また、子どもの唾液中の口腔内細菌にも違いがみられました。
研究者は、親の唾液を介して微生物が移ることが免疫刺激につながった可能性を考えています。
ただし、この研究も観察研究です。
「おしゃぶりを親が吸えばアレルギーが予防できる」と証明したものではありません。
じゃあ、虫歯菌はどうなる?
ここで話がややこしくなります。
アレルギーの研究だけを見ると、親子の唾液接触には興味深い可能性があります。
ところが、歯科の視点では別の問題があります。
むし歯の原因となる細菌が親から子どもへ移る可能性です。
日本小児歯科学会も、養育者から子どもへのむし歯原因菌の伝播について説明しています。
食器やスプーンの共有なども、伝播につながる可能性があるとされています。
そのため、アレルギー予防の可能性だけを見て「積極的に口移しをしたほうがいい」と考えるのは適切ではありません。
| アレルギー研究から見えること | 歯科の視点から見えること |
|---|---|
| 唾液接触とアレルギーが少ないことに関連 | むし歯原因菌が親から子へ移る可能性 |
| 口腔内細菌が免疫に関係する可能性 | 口腔内細菌には注意が必要 |
| 免疫発達への影響が研究されている | 親自身の口腔ケアも重要 |
| 口移しで予防できるとは未証明 | むし歯予防の観点では安易な共有は勧めにくい |
日本小児歯科学会は、食器を共有しないことだけでなく、養育者自身が歯科健診を受け、むし歯や歯周病のない口腔内を保つことも子どものむし歯予防に重要だとしています。
「清潔にしすぎるとアレルギーになる」と同じ話?
少し似ていますが、同じではありません。
アレルギー研究では、乳幼児期の微生物との接触や、腸内・皮膚・口腔内の微生物環境が免疫の発達と関係することが研究されています。
ただ、「細菌に触れれば触れるほど健康になる」という単純な話でもありません。
微生物には、体にとって有益なものもあれば、感染症の原因になるものもあります。
だから、「アレルギー予防のために衛生管理をやめる」という方向に話を持っていくのは違います。
今回の研究が面白いのは、乳児期の自然な親子接触と微生物環境が、将来の免疫にどう影響するのかというところです。
口移しでアレルギーを予防できる?
今回の研究を追っていくと、最初に思っていたより複雑な話だと分かります。
親の唾液が赤ちゃんに触れることと、その後のアレルギー疾患が少ないことを関連づけた研究は、実際にあります。
しかも、日本の学童を対象にした研究でも同じ方向の結果が出ています。
親の唾液に含まれる口腔内細菌が赤ちゃんの口腔内環境に影響し、それが免疫の発達に関係している可能性も考えられています。
ただし、
「口移しをすればアレルギーを予防できる」ことが証明されたわけではありません。
研究の多くは観察研究で、口移しそのものの予防効果を実験的に証明したものではありません。
さらに、むし歯原因菌などを親から子どもへ伝える可能性もあります。
そのため現在のところは、
「口移しにはアレルギー予防につながる可能性を示す研究がある。でも、アレルギー予防のために口移しをすることが勧められているわけではない」
というのが一番近い答えです。
「昔は普通だったことが、今ではダメと言われるようになった」。
そんな子育ての常識の中に、今回のような意外な研究が出てくることがあります。
大切なのは、「昔のほうが正しかった」と決めつけることでも、「最新研究だからすぐ実践する」ことでもありません。
何を調べた研究なのか、どこまで分かっているのか、別のリスクはないのか。
そこまで見てみると、「口移しとアレルギー」という一見不思議な話の背景が少し見えてきます。
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